Column

Angel Bridge USベンチャー研究#1

延長保証をAPIで提供する「Extend」の事例

こんにちは!Angel Bridgeインターンの山田と申します。
現在、海外や日本でSaaSの大型資金調達やIPOが続出しており大きなトレンドとなっていますね。特に、領域特化型のVertical SaaSが盛り上がりをみせています。
そうした背景からアメリカのEC領域特化SaaSの成功事例を調査し、それが日本でも応用できないか?日本とアメリカの注意すべき市場の違いは何か?などの観点から考察していきたいと思います。よろしくお願いします!
今回は第1弾として、延長保証をAPIで提供するExtendをご紹介します。

EC領域特化SaaSの全体像

まず初めに、EC分野のテクノロジー企業に対する投資動向について見ていきます。
BDOグローバルのレポートによると、EC分野のテクノロジー企業への投資額は2019年から2020年の前半にかけてCOVID-19の影響を受けて減少したものの、その後右肩上りに上昇しています。(*左軸参照)

EC領域特化SaaSの全体像 出典:New technology developments stimulate e-commerce investment and growth 14 June 2021 by BDO GLOBAL

次にもう少し詳しく見ていきます。
まず、EC領域特化SaaSは大きく二つに分類することができます。それは、

  1. ①ShopifyのようにEC機能全般を提供する企業
  2. ②ECサイトにAPIを提供することでサイトの機能を拡張する

の二つです。そして今回は②について詳しく見ていきたいと思います。
というのも、APIがビジネスとビジネスを繋ぎ、企業同士がお互いの強みを利用して新たな価値を創出する動きが近年活発になってきているからです。

フィンテック分野のBNPLはその代表例です。BNPLとは「Buy Now Pay Later」の略で、その言葉の通り「今買って後で払う」後払いサービスのことです。与信審査や手数料が発生しないという手軽さから利用者が急増しており、ECサイトに後払い決済機能を有したAPIを接続することで、EC事業者はCVR向上が見込めるのです。2021年9月に、日本でBNPLサービスを手掛ける株式会社PaidyがPayPalに3000億円で買収されたことでも話題になりました。

そして、BNPL以外にもECにAPIを提供するSaaS企業は年々増加しており、2021年現在14社のユニコーンが存在しています。その中でも特に注目な企業をリーチ・コンバージョン・ペイメント・ロジスティクス・カスタマーサポートというカスタマージャーニーに沿った5つのステップに分類してカオスマップを作成しました。

EC領域特化SaaSの全体像

こうして見てみると、半分以上の企業が2021年になってから1億ドル以上の大型資金調達を実施しており、EC領域特化SaaSの盛り上がりが分かりますね。

この中から、今回は第一弾として延長保証をAPIで提供するExtendを紹介します。

Extend概要

Extendは2019年に現CEOのWoodrow Levinによって設立されました。これまで4回の資金調達を行なっており、その合計調達額は$320Mです。
直近のSoftbank Vision Fundも参加した2021年5月のラウンドでは、$260Mを調達し評価額$1.6Bのユニコーンとなっています。Extendのmissionは、CEOのLevinのインタビューによれば「すべての製品にAppleCareをつけること」です。

Extend概要

続いてExtendのビジネスモデルについて説明します。
Extendは独自に保険会社と提携し、EC事業者に対して延長保証を簡単にECサイトに実装できるAPIの形で提供します。

Extend概要

企業は自社の商品と共にExtendの商品を販売するだけでよく、延長保証の運営自体はExtendが全て代行してくれます。マネタイズは消費者から支払われる延長保証の代金で行なっておりAPIの使用料は無料です。

Extendが解決しているペイン

延長保証の有無で顧客のCVRが大きく変わることから、ECにおいて延長保証はマーケティング戦略の一つであるという考えが最近浸透しつつあります。
しかし、以下のようなペインから中小のEC企業では充実した延長保証が提供できない状況が続いており、また顧客にとっても不便が多い状況でした。
Extendは延長保証業界がこれまで抱えていた以下のペインを解決しています。

①企業側にとってのペイン
延長保証のカスタマーサクセスに人員が大量に必要なことや、延長保証の契約料が高額なことから大企業しか延長保証を提供できないこと。
②顧客側にとってのペイン
実際に商品を購入した店舗に行って、煩雑な手続きを経なければ保証内容を受けられないこと。またレシートや書類などを保管しておかなければならないこと。
サービス内容

ExtendはECサイト上に無料で組み込めるAPIの形で延長保証を提供し、これらの課題を解決します。まずはExtendの延長保証提供のプロセスを見ていきましょう。

プロセス1: 消費者は商品と一緒に延長保証を購入
サービス内容
プロセス2: 商品が故障した際はExtend内のチャットで交換申請
サービス内容
プロセス3: 申請が通れば、新品の商品が発送される
サービス内容

このわずか3つのプロセスで保証が完結してしまうのです。
消費者にとっては、従来のように煩雑なプロセスを経ず全てオンライン上で保証が完結し、レシートや書類の管理なども必要ないのでスムーズな保証体験を提供できます。
企業にとっても、APIの使用量は無料であり、カスタマーサポートもExtend側が全て引き受けてくれるので負担ゼロで延長保証が導入できるのです。

Extendを支える技術

ではExtendはどのような技術でこのサービスを実現しているのでしょうか。
その技術として以下の二つが挙げられます。

①AIチャットボット
「Kaley」と名付けられており、機械学習技術によって請求されたクレームの98%を60秒以内に裁定できる機能を有しています。この技術はスムーズな顧客体験を提供すると共に人材削減にも貢献しており、APIの無償提供を可能にしています。
②機械学習を用いた価格設定技術
延長保証の適切な販売価格を設定することは、API使用料でマネタイズしていないExtendにとって生命線です。そのため、Extendは高度なデータエンジニアリング技術を持つメンバーを多数採用しています。例えば、現在ExtendのCRO(最高利益責任者)を務めているRob Pfeiferは、Affirm*の創業メンバーで最高リスク責任者と最高収益責任者を務めていた人物です。 その他にもAffirmで機械学習を用いた価格設定および財務組織で指導的地位をしめていたKevin Tsuiなど、金融バックグラウンドを有した精鋭エンジニアが多数在籍しています。
*Affirmとは2012年創業の「後払い」に特化したフィンテック企業で、これまでに累計10億ドル以上を調達した後、2021年1月に上場を果たしました。上場時の評価額は236億ドル(約2兆4500億円)となっています。
トラクション

現在Peloton、iRobotなどD2Cブランドを中心に150社以上のブランドと提携しています。

トラクション

また、APIを組み込めるECプラットフォームは、Shopify、BigCommerce、Magentoをはじめ30ほどあります。 実際にExtendの導入による収益増加の実績も多数あります。

トラクション
日本の延長保証市場

日本の消費者はアメリカと比較して、D2C企業よりも楽天などのモール型サイトの出品者からの購入が多いという違いがあります(Extendはモール型サイトへのAPI提供は行なっていません)。
しかし、延長保証をAPIの形で提供することへの大きな障壁は無いと思われます。
実際に、日本でも数社が延長保証をAPIで提供するサービスを手掛けており、日本の延長保証業界は今後更に盛り上がると考えられます。

おわりに

今回はEC領域特化SaaS特集の第一弾として、延長保証を提供するExtendを紹介しました。延長保証をAPIの形でECサイトに実装しUX向上を図ることは、アメリカでは既に主流となっており、日本にもその流れが着々と来ています。これからも、アメリカのEC領域特化SaaSの事例をもとに、日本で現在起こっている、もしくは今後起こりうるトレンドを紹介していきたいと思います。

最後になりましたが、Angel BridgeはCVR向上を目的としたEC周辺サービスにも積極的に投資しています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

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