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Angel Bridge USベンチャー研究#8(public.com)

スマホ投資アプリを提供する「public.com」の事例

2022.05.27

こんにちは!Angel Bridgeインターンの黒田です!

アメリカの未上場Fintech企業についての調査結果をシリーズ化して発信しています。

今回は第8弾として、スマホ投資アプリを提供するpublic.comを紹介します。

public.com

public.com概要

public.comは2019年に連続起業家のLeif Abrahamとフィンテックについて深い知識があるJannick Mallingの二人によって設立されました。2021年までに5回の資金調達を行っており、最新のラウンドでは$1.2Bの評価額で$220Mを調達しています。ユーザー数が300万人を超え、トラクションが順調に伸びていることからfintechの中でも注目すべき企業となっています。

public.com概要

public.comはミッションとして「株式取引の民主化」を掲げています。サービスとしては投資アプリを提供しており、特徴として以下の4つが挙げられます。

  1. ①手数料無料
  2. ②少額から取引可能
  3. ③SNS機能の搭載
  4. ④教育コンテンツの充実

これらは全て投資をよりポップにする機能であり、さらにUI/UXをシンプルにすることでこれまで投資に関わったことのない人でも使いやすいアプリとなっています。

サービス内容

①手数料無料
public.comでは株式の取引手数料だけでなく、銀行出金や入金にかかる手数料も無料で、入金しなければならない最低残高要件もありません。つまり、完全無料でアプリを利用することができます。
では、実際どのように収益を得ているのでしょうか。
public.comは以下の内容を公開しています。
https://public.com/learn/how-does-public-make-money
ここでは、取引の際に支払われる選択制のチップや投資されていない現金残高の利子、証券貸付から収益を得ていること、また今後有料のプレミアム機能を追加することで、サブスクリプションとして課金される可能性があることが書かれています。選択制のチップとはその名の通りで、取引の際にチップを支払うかどうか、またその額を選択することができるシステムになっています。
②少額から取引可能
public.comでは株価に関わらず、「slicing stocks」と呼ばれる任意の金額の株を購入することができます。これまで、本来は全ての人に開かれていたはずの株式市場でも購入単価の高い株は一般の人々には手が出せないという状況でした。しかしpublic.comでは、一株$1,000の株であっても$10分だけ購入するということが可能です。この機能があることで、資金をあまり持たない人でも高価な株を購入できます。
③SNS機能の搭載
public.comではSNS機能が搭載されており、ユーザーがポートフォリオを公開してお互いにフォローしたり、意見を交換したりできます。他人がなぜその株式やETF、暗号通貨を取引しているかを学べることや、興味を持っているテーマ(自動運転やフェムテック、環境問題など)が同じ人のポートフォリオを真似できることが、投資初心者にとって魅力的な機能となっています。
また、フォローしている企業や投資家の動向、IPO情報をすばやく検索確認できる機能もあります。
SNS機能の搭載 SNS機能の搭載
④教育コンテンツの充実
public.comのサイトには投資や株式に関する情報がたくさん載っています。またアプリにも教育機能が盛り込まれており、専門用語をタップすると定義が見られる、株価がなぜそのように動いているか解説してくれる、などの機能があります。
教育コンテンツの充実
教育コンテンツの充実

トラクション

CEOへのインタビューによると2021年2月時点でユーザー数は100万人を突破し、現在は300万人に到達しています。さらに、ユーザー全体の40%が女性で、90%のユーザーがpublic.comで初めて投資を行ったとされています。「株式取引の民主化」をミッションに掲げているpublic.comが、従来の投資家とは異なる層の獲得に注力していることがわかります。

競合

最も大きな競合として挙げられるのはRobinhoodです。2021年7月に時価総額$29Bで上場した企業で、ユーザー数は現在約2,000万人です。public.comと同じく手数料無料のスマホ投資アプリを提供しています。また、少額から始められる点もpublic.comと同様です。

競合

しかし、Robinhoodは投資の手軽さを強調しすぎたあまりに、若者や新規投資家が投資リスクを過少に扱って大きなレバレッジをかけてしまったり、個人投資家による株式市場操作が行われたりするなど問題を起こしてきました。

有名なものでは「GameStop事件」があります。これはヘッジファンドが空売りをしかけていたGameStop社の株に個人投資家が買い注文を殺到させ値を吊り上げることで、ヘッジファンドに莫大な損失を出させた事件です。この買い注文は主にRobinhood上で行われました。この時RobinhoodはGameStop株の購入を制限し、結果として株価の下落によって個人投資家の多くは損失を出しました。これはヘッジファンドが自由に取引できる一方で、個人投資家の株式購入を妨げる措置だとして、ユーザーだけでなく政治家からも批判が殺到しました。

また、Robinhoodは収益の大部分をPFOF (payment for order flow) と呼ばれる仕組みで得ています。これは証券会社(Robinhood)が個人投資家からの注文情報を機関投資家に回し、報酬を受け取るという仕組みです。機関投資家はその情報を分析することで市場での取引精度を上げ、利益を増やします。しかし、この行為が個人投資家に損失を出させているのではないかという批判があり、問題となっています。

一方でpublic.comはこれらの問題が起きないための対策を行っています。顧客には長期的なポートフォリオの構築を推奨しており、実際に90%のユーザーは「自分は主に長期投資を行っている」と回答しています。また、取引できる市場をNYSEやNASDAQなどの主要な取引所に制限し、オプション取引や信用取引口座のような複雑な取引商品を提供しないことで、個人投資家をリスクの高い投資から保護しています。

さらにpublic.comは収益モデルを透明化させるために、ビジネスモデルからPFOFを排除しています。代わりに選択制のチップ制度を導入することでこの問題を解決しています。

日本市場

日本では株式会社スマートプラスの「Stream」、マネックス証券の「ferci」が類似サービスといえるでしょう。どちらも取引の手数料は無料であるうえ、アプリ内でコミュニティを作り、ユーザー同士が交流できます。ほかにもベンチャー企業が出てきており、「投資 x SNS」領域は盛り上がっています。

日本市場日本市場

これには人々が資産形成に興味を持ち始めていることや、コロナ禍での株価の下落により投資機会が増えたことが原因として考えられます。日経新聞の調査によると、資産形成・資産運用の必要性を感じている人は増えています。20代の38%がコロナ禍による株価の下落を「利益を増やすチャンスだと思った」と回答しており、実際に20代の33.1%が「投資総額を増やした」と回答しています。あまり資金をもたない若者が手軽にスマホで投資を始められる手段として、これらのサービスが刺さっているのだと考えられます。

日本市場
日本市場

おわりに

今回の記事ではpublic.comを紹介しました。手軽に投資を始められ、ユーザーがお互いに交流できるサービスが海外だけでなく日本でも盛り上がっていることがわかりました。

最後になりましたが、Angel Bridgeは世の中を大きく変えるフィンテック企業に積極的に投資しています。 事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

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